Masukそれから領地内の孤児院や修道院にも足を運んだが、殺人犯の実の娘であることやあと二年で成人という点で門前払いを受けた。
しかし、いつまでも泣いて落ち込み続けても、暮らしていけない。 少しずつこの領地の隣人たちの信頼を取り戻そうと、ヨハンの提案によって始めたのが養鶏業だった。 餌を撒き終え、鶏の群れの中でぽつりと立つイルゼは口を手で押さえて欠伸をしていた。そんな様子に見かねたのだろう。 「イルゼはねぼすけだな。まだ眠いのか?」 笑いながらヨハンに言われて、イルゼは首を横に振るい「大丈夫」と、またも「だけど、俺も花は嫌いじゃないよ。植物とはいえ命があるからねぇ。枯らすのは惨い。だから、庭師を雇って管理をさせて存続させてる。どーせなら、いつか一般開放して領地の奴らに見て貰いてーとは思うけどなぁ」 ……庭を一般開放。 「変人」と呼ばれた彼の口から出るような言葉でないと思えてしまった。 存外、彼は領地の人のことを考えているのだろう。イルゼは呆気に取られてしまう。 「なんだよ、その〝意外〟みてーな顔。俺、後ろに目が付いてるから分かるんだよ?」 どこか意地そうに彼は笑うが、何だかこうも彼の表情が明るいとイルゼも嬉しい気持ちになって思わず微笑んでしまった。すると彼も微笑み返してくれる。 あの医者は言っていた。笑顔は連鎖すると。それは本当らしい。 「確かに一般開放されてこの庭園を見たら喜ぶ方がきっとたくさんいそうですね」 「だよな? じゃあそれは将来的に視野に入れておこーっと」 彼がそう言って間もなく、蔓薔薇に囲われた東屋に突き当たった。 真っ白な砂岩でできており、漆喰装飾を施して妖精のレリーフが至る場所に掘られているなど、こちらも立派な佇まいだった。それでもかなり年季が入っているのだろう。彫刻の溝に苔が蒸しているので、相当古いものと窺える。 「少しここで待ってよう。昼食、運んでくれるって言ってたし。多分そのうち来るんじゃねーの?」 この場所に来るまで城から距離もなかなかある。ここまで運ぶのか……。 「さすがに、それ……使用人の方たちに」 ……悪いのではないか。と、言わんとする前に、彼は首を横に振る。 「いや。考えてみな。ここ、緩い傾斜だけ。あの欠陥建築の階段に比べりゃね」 確かに言われてみればそうだ。イルゼは納得して間もなく──アーチの向こうから人の足音が二つ聞こえてきた。 食事を運んできたのは、ヘルゲとザシャの二人だった。彼らはテキパキと給仕しつつもミヒャ
「やっぱ花は興味ない?」「そうじゃなくて……凄いなって思って。こんなに素敵なお庭初めてで、驚いて上手く言葉にできません!」 やや興奮気味だった。イルゼは目を爛々と輝かせて思ったままを言えば、彼はやんわりと微笑む。 「一ヶ月でこうも感情が豊かになったイルゼの方に俺はもっと驚いたよ」 戯けた調子で言われて、イルゼは真っ赤になってしまう。 確かに自分らしくないと言えばそうかもしれない。けれど、こうも心が勝手に動くのだ。 「……だって」 ふて腐れるように言うと、彼は優しく笑みを向けたまま、イルゼの肩を摩る。 「俺くらいになれとは言わねーけど、イルゼは思ったことをもっと言えばいいと思うよぉ?」 ──嬉しそうなイルゼ見るの、俺は嬉しいよ。と、続けて言われてしまい返す言葉も見当たらない。 けれど、その言葉が胸の奥をほのかに熱くさせる。 それがこそばゆくなりはじめて、真っ赤になったイルゼは俯いてしまった。 これでは本当に彼を好きになってしまっているのではないだろうか。 こうも自分を肯定し、ありのままを受け入れてくれるなど普通だったらありえない。否、彼は変人なので、自分の暗い性質など微塵も気にしていないのかもしれないが……。 彼が部屋に迎えに来た時から、意識しないようにしていたが、やはり昨晩の夢が頭から離れないのだ。 「本読んだ?」と、気さくな調子で訊かれて一応頷いたが、上手い返事や感想なんて返せなかった。 だが、それ以上は何も訊かれなかったことが幸いだっただろう。 さて、いい加減に平常心を取り戻そう……。 そう思った矢先に、ミヒャエルは不思議そうに首を傾げてイルゼの顔を覗き込む。 「ひゃ……」 あまりに至近距離だったの
真っ暗な闇に閉ざされるのも束の間……やがて、視界が広がるが、今度は藍色一色だった。 暗いが、それでもよく分かる。すっかり見慣れた室内だ。カーテンを閉め忘れた所為か、淡い月明かりが窓から差し込んでおり、壁に施された装飾がより神秘的なものに映った。 (……ゆ……夢?) イルゼは瞼を擦ってベッドから起き上がり、窓辺に歩み寄る。壁にかけられた時計を確認すれば午前三時三十分過ぎを示していた。 ……つまり、就寝から一時間と少ししか経過していない。 否、寝付けなかったので一時間ほどしか経っていない。 身体が熱くて、下腹部からどろどろとした熱が蕩ける余韻が残っていた。 少し、動くと秘部が湿った心地悪さがある。 しかし、なんて卑しく淫靡な夢を見てしまったのか。さすがに、こんなのは彼にも悪い。それに、日中に庭園に出る約束しているので、嫌でも思い出してしまうに違いない。 果たしてどんな顔をして会えば良いのか……。 イルゼは、ベッドの端に設置されたローテーブルの上に置いた本を睨み、澱を吐き出すように深いため息をついた。 しかしながら……夢の内容は殆ど、本に書かれていた通りだった。 寝る前にあんな本を読むもべきではないだろう。それに、彼をどう思うか戸惑っていたので、あんな夢を見たのだと思しい。 ──甘やかな告白をされてドキリとしてしまった。しかし、所詮は夢だ。現実で彼が、そんなことを言うわけない。言うような性質に思えなかった。 しかし、〝俺のこと好きでしょ〟と……。 夢の中で彼はそう言ったが、これはまだ言いそうだ。だが、その答えはやはりはっきりとしない。 しかし、あんな淫靡なことをされても抵抗できない自分がいた。挙げ句に〝認
そうだ、きっと「彼のことを好きなんだ」とイルゼはこのとき初めて自覚した。 けれど、これを認めて、彼に言って良いかイルゼにも分からない。 彼は何を考えているかわからない部分が多すぎる。飽き性かもしれない。それに、どこか危うい雰囲気を感じるもので、好きになっていい人か分からない。 本当は優しい人だと分かっていても、不安でしかないのだ。 「もう鶏を殺さないで済むんだよ? あれ、本当は嫌だったんでしょ。辛かったんでしょ。それに、ボロボロの服を着ることももうないし、胸くそ悪い義姉にいびられることもない。ここにいれば、イルゼのことを蔑む奴も隠そうとする奴もいない。好きに生きていいんだよ? それに子どももできれば、イルゼのことを愛してくれる人がこの世に増えるんだよ」 まるで諭すように言われて間もなく──彼は脚の付け根に這わせていた指を横に動かし下着の上から割れ目に沿ってツゥ……と、指を動かした。 ただ触れただけだが、その一瞬にして身体の奥で夥しい熱が燻り背筋に甘い痺れをもたらした。 「あんっ……みひゃえるさま、だめ、だめっ」「んーそんな蕩けた顔されても、説得力ないよ。それにほら、こんなに腰揺らして、イルゼはえっちだね」 嗜虐的な顔をして、彼は薄く笑むと、イルゼの膝の裏に腕を入れて、後転してしまいそうなほどに、脚を高く上げた。 本当にこれでは丸見えだ。 「あっ……やだ、やだぁあ!」 羞恥で顔が熱い。恥ずかしくて堪らないのに、秘部は熱を持ち、何かを期待するように淫らな芽が疼き、ヒクヒクしている心地がした。 その期待に応えるよう──彼は下着の上からツゥ……ともう一度割れ目をなぞり、蜜洞の入り口を丸くなぞる。 「イルゼに分からせてあげる。この中に俺のをハメて扱くんだよ。イルゼって細くて小さいから、俺の挿れたら痛いかもしれないし壊れちゃうかなぁ? だからね、壊さないように優しくいっぱい慣らさないとダメだよ
見下ろされた彼の白銀の瞳は、甘ったるい熱を含んでいた。 「ん。可愛い声……ねぇローレライは抱いたらどんな声で歌ってくれるのかなぁ」 外耳を舐めるような甘い声。彼はイルゼの耳たぶに口付けを落とすと、突如布団を蹴り上げ、イルゼのナイトドレスを乱暴に脱がせ始めた。 「あっ、ま、待って……! みひゃえるさま、だめ! 私好きとか分からない……」 与えられる快楽に舌っ足らずになりつつもイルゼは慌てて訴える。だが、それ以上は言わせまいと唇を噛みつくように塞がれてしまった。 唇と唇が触れ合っている……。キスされたのだ。 額や頬に触れられるだけのキスはこれまで何度か挨拶でされたが、唇に与えられるなど初めてで……。 唇と唇を重ねることは特別なこと。恋人同士、或いは夫婦にしか許されない。 恋人でも夫婦でもないのに、なぜにこんなことをするのか……。 イルゼは、目を大きく瞠って、肩を震わせる。 やがて、触れ合うだけの口付けは、食むのを皮切りに烈しいものに変わり果てる。 唇の隙間から、ぬめっとした熱い塊が口の中に滑り込んできたのだ。それが彼の舌だと分かり、驚いたイルゼは身を捩るが腰を掴まれ、頤を固定されてしまったので身動き一つも取れやしない。 そうして、角度を変えて彼はお構いなしにイルゼの口の中を翻弄する。舌を見つけると甘く絡めて、唾液が絡み、ぴちゃぴちゃと生々しく淫靡な音を上げた。 まるで、お互いの境界さえ溶かすよう──甘くくねっとりとした口付けに、イルゼの腹の中に宿った熱は灼熱と化す。腰はヒクヒクと震えると、うっすらと開いた視界の先の彼は、どこか満足そうな顔をしていた。 「ん……ぅう、あぅ……」 けれど、
淫靡な内容の本……と、思ったが、内容は存外、純粋な愛を育む物語だった。 その内容は──貴族の息子が庶民の娘に想いを寄せ、身分差で愛を成就させる物語だった。 二人の愛は当然のように周囲はよく思わない。禁忌の愛だった。 しかし、離れ離れになる前に彼は既成事実を作る。彼は無理に彼女を抱いたのだ。そうして淫楽に更け、やがて彼女が妊娠した。必ず幸せにするために……そうさせたのだと。何があってもこの娘を死が分かつまで愛し続けたいと、男は身分さえ捨てても構わないと、彼女を情熱的に思い、永遠を誓い合った。 そう。気づけば熱中するほどにその内容は面白かった。 そうして、本を閉じた頃、遠くで二つ鐘の音が鳴ったことに気づいた。 ……午前二時だ。さすがに夜更かしが過ぎただろう。 イルゼはすぐに本をテーブルに置いて眠りにつこうとするが、どうにも眠気が来なかった。否、先程の本の内容が頭にぐるぐると回って止まらないのだ。 艶めかしい行為もそうだが、尤もなことは恋に落ちた時のこと……。 酷くドキドキする、心の奥が擽ったくなり熱くなる。視線もろくに合わせられない。胸が妙につっかえる。それを知った所為もあるだろう。 今の自分に大いに自覚がありすぎたからだ。 つまり、自分はミヒャエルに……否、ルードヴィヒに好意を寄せているのかと疑わしく思えてしまったのだ。 (そんな、まさか……だって) 布団を頭の上まで被って、イルゼはきゅっと目をきつく瞑った。 彼に哀れまれて助けられただけだ。過去に出会い、自分をローレライと呼んだ唯一の相手ではあるが……事実、彼のことはまだよく分かっていない。 今日知ったことといえば、本当に読書が好きということくらいで……。 愛情が育つのだろうかと疑